花言葉 2

大きくなったうさぎさんとさるさんは結婚しました。
結婚式にはねこさんも招待しました。うさぎさんの準備室でねこさんは昔のことを思い出して泣き出してしまいました。
「うさぎさん、あのことまだ誰にも言わないでくれているでしょ」
ねこさんは不安そうに聞きました。この部屋には今、うさぎさんとねこさんだけです。
「ええ、誰にも言ってないわ。今は、だけどね」
「わたし、とらさんと結婚したいと思ってるの。あのことをしったら、きっととらさん、わたしのこと嫌いになる…お願い。とらさんにだけは言わないで」
うさぎさんが笑いました。
「へぇ。いいこと聞いちゃった」
ねこさんは声を上げて泣き出しました。
「わたし、本当に悪かったと思ってる。でも本当にとらさんが好きなの。とらさんに嫌われたらわたしもう生きていけない」
「わたしの言うこと聞いてくれるなら、今は言わないであげる。じつは今日ね、とらさんも呼んでるの」
「何でも聞くから」
「なら、今日からとらさんの記憶を失ったふりをするの。できないなら言う」
その時、ドアにノックがありました。
「とらです。ねこはいますか。あの、入っていいですか」
ねこさんの毛が逆立ちます。そして、青い顔と小声でいいました。
「お願い、言わないでよ」
「それはあなたしだいよ…あら、とらさん。入っていいわよ」
ドアが開いて、とらさんが入ってきました。
「ねこ、やっぱりここにいたのか。ほら行こう」
ねこさんはとらさんとうさぎさんを交互に見ました。
うさぎさんは、目でねこさんに合図しました。
− ほら、やって
「 …あなた誰」
ねこさんは言いました。
「何行ってるんだい?とらに決まってる」
「どうして?うさぎさん、この人誰なの。人のこといきなり呼び捨てにして失礼だわ」
ねこさんの演技は上手でした。それもそのはずです。ねこさんは昔演劇部に入っていたのです。
「ねこさん、とらさんよ。ほんとにわからないの」
「しらない!こわいわ、この人」
とらさんは困っていました。でも怒っているようでもありました。
「本当に忘れたの?へんなねこさん」
とらさんは部屋を出て行ってしまいました。
「ああ、とらさん!」
ドアがしまり、また泣き出したねこさんに、うさぎさんは言います。
「なかなかうまいじゃない。当分は言わないであげる」
ねこさんは何も言わずに部屋を出ようとしました。その前にちょっと、うさぎさんをにらみました。
「ねこさん待って!これあげる。花言葉は失恋よ」
うさぎさんは笑って、ねこさんに 白いチューリップを投げました。チューリップは、ねこさんにあたっておちました。うさぎさんは出て行くねこさんに言いました。
「わたしの復習はこれからよ」


ひろう宴が始まりました。うさぎさんとさるさんは幸せそうに笑っています。
けれどねこさんはとらさんとはなれて1人で黙ってすわっています。
ねこさんは考えました。
−とらさん、わたしがちゃんと言えば許してくれるかも。昔のことだもの。どうせ、このままうさぎさんの言うこと聞いててもとらさんにきらわれそうだし。それなら許してくれる方にかけた方がいいわ 
「言おう」
ねこさんはとらさんのところに向かいました。
「とらさん、さっきはごめんなさい。あのね、言いたいことがあるの。ちょっと出ましょ。」
ねこさんが言うと、とらさんは不思議そうな顔をして言いました。
「すみません、あなた誰ですか」
「えっ」
ねこさんはびっくりしました。そしてとまどった顔で言います。
「謝ってるのにひどいわ、とらさんふざけないで?」
「本当にしらないんです。ごめんなさい」
とらさんは、どうやら本当に忘れているようでした。とらさんはあのあと、ねこさんに自分のことを忘れられたというショックでねこさんのことを忘れてしまったのです。
「ごめんなさいとらさん、思い出してよ。ねこよ!」
「ねえ、きつねくん、この人のこと知ってる?」
「うそでしょ…」
ねこさんはたえられなくなって、会場を出ました。悲しみは、怒りに変わっていきました。
けれど怒りのほこさきをどこに向ければいいのかわかりませんでした。
「もういや!」
−そういえば、うさぎさんは復習はこれからって言ってた… いったい何があるんだろう。
だれか助けて!


「さるさん、わたし今とっても幸せ」
「結婚式も無事終わったしね」
「そうね」
少し間を空けて、さるさんは言いました。
「うさぎ」
「なぁに」
「ねこさんのことだけどね…」
うさぎさんは一瞬目を見開きました。。
「ねこさんなんかもうどうでもいいじゃない。関係ないわよ」
「ちがうよ。僕の友達のとらが、ねこさんのことをすっかり忘れちゃってるんだ」
「え…」
うさぎさんは驚きました。
「それがね、きつねくんが言うには、とらがきみのところに行ったねこさんを迎えに行っただろ?そしたらとらが1人で帰ってきたんで理由を聞いたら、なんで僕は向こうの部屋に行ってたんだっけ、て聞いてきたんだって。きみとねこさんのところに行って、ねこさんを忘れたらしいよ」
「そんな…わたしはただ…」
「どうしたの」
「なんでもないわ。ちょっと気持ち悪い」
うさぎさんは悲しくなりました。
−わたしのせいだわ。でもわたしは少しからかっただけのつもりだったのに。とらさん、あのあとショックでねこさんのこと忘れちゃったのね。本当に悪いことをしちゃった。
わたし、昔のねこさんと同じだわ。ねこさんは、昔のわたし…
どうしよう、ねこさん自殺しちゃうかも!
「さるさん助けて。ああ、ごめんなさいねこさん」
「うさぎ、何があったか教えて」
「わたし、ねこさんに昔のわたしと同じ思いをさせてしまうところだった。いえ、もうしてしまった」
うさぎさんはさるさんにすべて話しました。さるさんは、静かに話を聞いてくれました。さるさんに嫌われるかもしれないという不安はあったけれど、その時はなによりもねこさんが心配だったのです。
「とにかく、ねこさんに電話してみるんだ」
「ええ」
ねこさんは家にいませんでした。留守番電話になると、ねこさんの泣きながらしゃべる声が入っています。
「はい、ねこです。留守番話はいれても意味ないです。わたしはもう帰りませんから…」
うさぎさんとさるさんは、ねこさんをさがしましたが、どこをさがしてもねこさんはいません。
「もしかして…」
うさぎさんは、昔自分が行った、あの森に向かいました。途中、辛夷を1つつんでにぎりしめました。
−ねこさん、どうか無事でいて
うさぎさんは森に入りました。おくに、人影が見えます。
「ねこさん?」
人影が振り向きました。たしかに、ねこさんでした。
「うさぎさん!?もう、あなたのいうことは聞かないから」
「ごめんなさい、ねこさん」
うさぎさんはねこさんに近づきました。
「いやよ、こないで。うさぎさんなんか大嫌いなんだから!」
「ねこさん…」
うさぎさんのほほを涙が流れます。
「これを」
うさぎさんはつんできた辛夷を差し出しました。けれど、ねこさんはうさぎさんの手から、辛夷をたたき落としました。
「今度は何よ!花言葉はあなたのこと嫌いだって?」
「ねこさん」
うさぎさんは怒って言いました。
「辛夷の花言葉も知らないくせに、勝手なこと言わないでよ。辛夷の花言葉はね…」
「永遠の友情、だよね。うさぎさん」
いつのまにか2人の後ろにとらさんとさるさんが立っていました。
「とらさん!」
「ねこ、思い出したよ。さるくんが、思い出させてくれたんだ。おねがいだから、もう僕を忘れたふりなんかしないで」
そう言うと、とらさんは、うさぎさんの辛夷を拾って、もう1つの自分が持っていた花といっしょにねこさんに渡しました。
「錨草…」
ねこさんは呟きました。
「そうだよ。花言葉は…」
「あなたを放さない、ね」
うさぎさんが言うと、とらさんはうなずきました。
「みんな、ごめんなさい」
「わたしもごめんなさい」
ねこさんはうさぎさんに抱きつきました。
2人がごめんなさいを繰り返している間にも、少し暑くなってきた春の太陽は、4人と花をてらし続けていました。
もうすぐ夏です。うさぎさんが昔この森に来たのも夏でした。
このあたりは杜若の小さな芽でいっぱいです。
夏になると、それは綺麗な花がさくでしょう。
とらさんと杜若の芽を見て、うさぎさんはにっこりして言いました。
「幸運は必ずくるわ、ねこさん」
うさぎさんの後ろには指輪をもったとらさんがいます。
「結婚しよう、ねこ」
ねこさんの涙でくしゃくしゃになった顔に、笑みがあふれました。
「杜若の花言葉は幸運は必ずくる、でしょ?うさぎさん」
うさぎさんがうなずきました。
ねこさんは、うさぎさんが昔この森に来た理由が少しわかった気がしてうれしくなりました。